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『役割』 ヴァンフォーレ甲府戦 山岸範宏 興梠慎三

90+6分、ヴァンフォーレ甲府の青山直晃にボールを押し込まれた直後、山岸範宏の口から叫び声がついて出た。
しかし、数瞬の後には切り替え、彼は自らの手でボールをセンターサークルへと送っている。

山岸が今季初出場を遂げたのは9月7日。ナビスコカップ準決勝第1戦だった。
2-0とリードした後、3度、背後のネットを揺らされている。
どの失点の形も、彼に止めることを要求するのは酷なものではあった。
「でも、3点ともラストパスを出す選手、シュートを打つ選手への寄せがちょっと甘いかもしれないから、もっと行かせないと」
試合翌日、彼はそう振り返っていた。
「反省のない失点というのはないからね」
彼の以前からの信条だったが、直接聞くのは久しぶりだった。

もっとも、山岸は失点に関して、プレーとは直接関係のない部分でも反省点を見出していた。
「失点から10分以内にまた失点することが多いんですよね。そこはウチの課題」
川崎戦では、79分に大久保嘉人の豪快な一発で同点にされ、その1分後に逆転弾を喰らっている。

ゴールを奪われた直後にピッチ上の選手たちのメンタルがガクリと落ち、冷静さを失っているように見えることが今季何度かあった。
山岸もベンチ脇から見ている間、同様のことを感じていたらしい。
「失点から10分以内にまた失点することが多いんですよね。そこはウチの課題」と語った。
そしてその課題を、自分が何とかできないのかと考えてもいた。

「失点した後に、悪くなった流れを切るということが必要。年齢とかチーム内での立ち位置を考えても、それは自分の仕事のひとつなのかな……、と思います。そこはもっと自分もやっていかないといけない。大きな反省点のひとつ」

川崎戦から2週間が経った甲府戦、複数の決定機を防いできた山岸は、アディショナルタイムにネットを揺らされた。
そして、自らの手でセンターサークルへとボールを送り返した。
その直後、ペナルティエリア内に肩を落とした選手がまだ留まっているのを目にして、自らがエリアの外まで出て、チームを鼓舞した。両手を後ろから前方へ掻き出すように動かし、彼らの意識を、背中を『前へ』と押していた。


まもなく試合終了の笛が鳴ると、興梠慎三は仰向けにピッチに倒れ、荒い息を継いだ。

「チームが勝てば、自分はどうでもいいんすよ」

興梠はそう公言して憚(はばか)らない男だ。

「チームが勝ってるなら、『僕は自分の数字にはそんなこだわってないんですけどね』って思うんですよ。『チームが勝ってるなら、いいじゃないですか』って」
FWとして、得点を挙げるということから逃げているわけではない。
欲がないわけでもない。
興梠が『チームの勝利』を最重要視するのは、彼が人一倍、優勝にこだわっているからでもある。
ホームでの大分トリニータ戦、1-3とリードされて迎えたハーフタイムに、彼が「優勝したくないんか!」と語気を強めて口にしたことは、ファン・サポーター諸氏はご存知のはずだ。

もうひとつ、興梠が自分が得点することに強く固執しない理由がある。
得点以外のプレーも評価してもらいたいという思いを抱えているということだ。
だからこそ、彼はレッズサポーターに感謝している。
「自分で言うのもなんですけど、アシストしたり身体張ってキープしたり、レッズのサポーターはそういうのをちゃんと見てくれて、応援してくれてるんだなって思います」
移籍から数カ月を経たころ、彼は嬉しそうにそう語っていた。

今日の甲府戦、89分、山岸が前線へ大きく蹴り出したボールを、興梠はDF2人の圧力をものともせずに胸トラップで収めた。さらには自らの身体を盾とするようにボールを守り、相手の3人目が戻って来るとフォローについた味方へとボールを浮かせて逃がした。まもなく90分にという段階で見せた、力強さと軽妙さを兼ね備えることを示すそのプレーに、スタジアムには割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

あの拍手は、彼の耳に届いていたのだろうか。
届いていたと思いたい。
試合後、それを確認することは叶わなかった。
ミックスゾーンで報道陣から声をかけられた興梠は、「今日は勘弁してください」と言うように手を挙げ、去って行った。
筆者はミックスゾーンでの彼の行動をいつも追っていたわけではないので確証はない。だが、僕が見てきた限りでは、彼が無言で去ったのは浦和に来て以来はじめてのことだ。
もっとも、何より雄弁だったのは試合終了後の彼の行動だろう。

両チームの選手が互いに握手を終えると、サポーターへ挨拶に向かうチームメイトの流れとは逆方向に、興梠だけが歩き出した。
身体を引きずるようにしてベンチに辿り着くと、RECARO製のスタジアムシートにへたり込んだ。

そんな興梠を連れ戻しに行ったのが山岸だった。
「慎三は悔しさを滲ませながらベンチに戻っちゃったけど、サポーターへの挨拶は全員で行かなければいけなかったから、呼び戻しました。あれで呼び戻さなかったら、あのまま1周しちゃってたと思うから」
山岸はそう振り返る。
「どういう結果であろうと、僕らは結果を受け止めるしかない。勝てなかった後にサポーターのブーイングを浴びるのも、浦和の選手である責任だと思うから。だから、慎三も行かなきゃ駄目だと思って呼びに行った」、と。

たしかにこの日、浦和レッズは勝ち点2を失った。
しかし、それでも首位とのポイント差は4、残る試合数は8。
まだ下を向くには早すぎる。

(了)

【追記】

山岸がベンチに甘んじていた期間そうしていたように、この日の加藤順大も、試合後に肩を落とす仲間を励まして回っていたことを付記しておきます。

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テーマ:Jリーグ - ジャンル:スポーツ

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プロフィール

小齋秀樹

Author:小齋秀樹
1970年12月18日、宮城県生まれ。仙台第一高校→早稲田大学卒業。
サッカー選手のインタビュー、ノンフィクション執筆をメインに活動するJリーグ登録フリーランスライター。

著書は『goalへ―浦和レッズと小野伸二』(文藝春秋)、『敗戦記』(文藝春秋)。

サッカー専門誌や『web Sportiva』、『Sports Graphic Number』への寄稿のほか、浦和レッズのホームゲームで発行・販売される『オフィシャルマッチデープログラム(MDP)』にて『WARRIORS IN RED』を連載中。

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