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人生は上々だ ― かつての『レッズ』に会いに行く 小林陽介(第2回)

    (第1回はこちら)


2003年12月9日、Jリーグ合同トライアウト。
センターサークルに立った小林は、《点を取ろう。自分を信じて、思い切って行こう》と、再度心の中でつぶやいた。

黄色いビブスのC対青いビブスのD。
先制は小林たちだった。
8分、ペナルティアークに立った小林に縦パスが入る。ほぼ同時に、青いビブスを着けた味方が、自分の外側を駆け上がってくるのが視界に入った。
DFを背負った小林は、ターンしつつ右足のインサイドでワンタッチして自分の斜め後ろ、ペナルティエリア内右へとボールを流した。青いビブスの『40』が走りこみ、小林に付いていたDFが追走してファウル。PKを獲得する。

その瞬間、ちょうど1ヶ月前の試合が小林の脳裏によみがえっていた。
熊谷で行なわれたベガルタ仙台とのサテライトリーグ最終戦、小林はPKを外していた。インステップで思いきり蹴るのが彼のスタイルだったが、この仙台戦の際には、なぜか弱気になり、右足インサイドで置きにいってしまい、結果、GKに止められていた。試合は、2-3で敗れている。

PKを得た『40』番の選手はペナルティマークへと向かわず、後方の自分のポジションに戻っていった。
《・・・誰が蹴るんだろう?》
そう思っていると、「コバ!」と声がした。
それが自分を呼ぶものだと理解するのに、一瞬だけ間があった。
声の主は、大宮アルディージャの大塚真司。
Dチーム内でも年長の彼に目線でPKを蹴るよう促され、小林はペナルティマークに向かった。

サテライトの試合でPKを外したときから、次にチャンスが巡ってきたら思いきり蹴り込むと決めていた。
自分の手でボールをセットし直し、助走を取ってから、右足のインステップでゴール左を狙う。
ボールは、ゴール左上のネットを突き刺した。

その後、彼らは17分に同点弾を許す。
PKでのゴールで、《点を取ろう》という最低限の目標は果たしたと思っていた小林は、1-1とされ、《もう1点取る!》と思い直す。

試合は一進一退の攻防で続いた。
パスを出してくれるか不安だった湘南のサントスも小林のパスにリターンで応えるなど、チームプレーを重視してくれた。
彼に限らず、トライアウトだからといって、わがままなプレーに走る選手はいなかった。
そして26分、カウンターのチャンスが青チームに訪れる。
中盤右サイドにボールが渡ると、小林は早い動き出しでパスを呼び込む。
ペナルティアーク右脇付近でワンタッチしエリア内へ侵入し、2タッチ目に右足インステップでシュート。
トラップの瞬間、心の中で「決めるっ!」と、小林は叫んでいた。
シュートの瞬間は無心だった。
ボールは、GKの正面に向かったが幸いにも股間を抜けてネットを揺らす。
《気持ちが伝わったのかな》と思わされるゴールだった。
レッズでは、練習中のゲームも含め、絶好機に限ってシュートを外すことが多かっただけに、このゴールには感慨もあった。

開始から35分が経過し、2-1のまま試合終了のホイッスルを聞く。
《最低限のアピールはできたかな》との手応えがあった。
この日1日だけのチームメイトが集まり、互いに健闘をたたえ合う。小林に対しては、皆が口々に「ナイシュー!」と賞賛してくれる。
それが嬉しかった。

グラウンドでは、引き続きE対F、G対Hの試合が順に行なわれていった。
その間に味の素スタジアム内の風呂に入り、着替えも済ませる。
携帯電話を見ると、着信があり、留守番電話のマークも点灯していた。確認してみると、レッズ強化部スタッフから「すぐに電話をくれ」とメッセージが吹き込まれていた。

《もしかして―》

淡い期待を抱きつつ、折り返し電話を入れる。
JFLの横河武蔵野FCから練習参加のオファーがあったと報された。さらに数十分後には、J2モンテディオ山形からも、独自に開催するセレクションに参加してもらいたいとの申し出があったことが伝えられた。

まだ契約を勝ち取ったわけではない。

《でも、自分を評価してくれる人がいる》

レッズから契約満了を言い渡されてから2週間あまりの間で、20歳の青年の身に舞い降りた最良の出来事だった。

(第3回はこちら)

この原稿はメールマガジン第7号(2013年9月19日配信)から転載したものです。
他のコンテンツは

●大原ノートから 『矢島慎也・野崎雅也とJリーグの20年』『2015年からの改革を前に今、Jリーグがすべきこと』

●記憶に残るあの一言
        
●あなたの『?』に答えます

などです。

なお、『人生は上々だ 小林陽介 第3回』は9月26日配信のメールマガジン最新号に掲載しております。



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テーマ:Jリーグ - ジャンル:スポーツ

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プロフィール

小齋秀樹

Author:小齋秀樹
1970年12月18日、宮城県生まれ。仙台第一高校→早稲田大学卒業。
サッカー選手のインタビュー、ノンフィクション執筆をメインに活動するJリーグ登録フリーランスライター。

著書は『goalへ―浦和レッズと小野伸二』(文藝春秋)、『敗戦記』(文藝春秋)。

サッカー専門誌や『web Sportiva』、『Sports Graphic Number』への寄稿のほか、浦和レッズのホームゲームで発行・販売される『オフィシャルマッチデープログラム(MDP)』にて『WARRIORS IN RED』を連載中。

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